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大学生にもなってうんこを漏らしかけた奴の話

油断大敵

電車。都内の大学へと向かうこの乗り物に俺は乗っていた。

 

もう少しで都内に入る…そんな時、腹が痛くなった。

 

中学生の時から今までずっと腹痛に悩まされた。そんな俺は今までの経験でわかる。

 

「これは、まだ耐えられるやつ」

 

そう判断した。事実、1分後には腹痛は治った。

 

電車がとある駅に着く。目的駅まであと4駅だ。

 

よし、ここはスルー。腹も調子取り戻してるし。

 

「3番線、ドアが閉まります。ご注意ください。」

 

アナウンスが流れると同時にドアが閉まり始める。

 

徐々に閉まるドア。もう少しで完全に閉まるという時だった。

 

悪魔が腹で暴れ出した。

 

中学の時から今までずっと腹痛に悩まされた。そんな俺は今までの経験でわかる。

 

「これは、ヤバイやつだ。」

 

Dr.コトー診療所

 

 

 

 

Dr.コトー診療所というドラマを見たことがある人はいるだろうか。

 

俺はあのドラマが大好きだ。

 

見たことのない人に簡単に説明すると、コトー先生というお医者さんが、離島にある小さな診療所に赴任して島民の治療をする話である。

 

最初はみんなに受け入れてもらえないコトー先生が段々と島に必要な人として受け入れられていく…

 

そんな話。

 

俺が何より好きなのは、コトー先生の優しい表情と声、話し方だ。

 

本当に優しく、病気で苦しむ患者の励みになる。

 

いつもはシキナー島で働くコトー先生は、あの日、確かに俺の頭の中にいた。

 

「どこが痛いのかな?」

 

おなかです。

 

「大丈夫だよ。ちょっと触診するからね。」

 

はい。

 

「うーん、下痢だね。」

 

わかってます。

 

「あやかさん、和田さん、このままだと非常に危険な状態です。」

 

ナースと事務員に話しかけている。

 

「このまま、診療所でオペをします。」

 

そうだ、オペをすればいいんだ。

 

「うんこを漏らす」というのはあくまで

 

「ケツの穴からうんこを垂れ流す」行為である。

 

腹かっさばいてお腹から直接うんこを取り出せばうんこを漏らしたことにはならない。

 

想像してほしい。

 

電車内で人が腹を破裂させうんこを爆散している状況を。

 

その人間に対し、「あいつうんこ漏らした!」なんて思うだろうか。いや、思わない。

 

どうでしょうか、この考えは。

 

「頭いいね〜!すごいなぁ。」

 

コトー先生も褒めてくれている。

 

早く、1秒でも早く、解放されたい。

 

ふと我にかえった。

 

頭の中でコトー先生に褒められていても、現実は電車の中。

 

神頼みをするように、俺はコトー先生頼みをすることしかできない。

 

コトー先生との別れ

 

人間、なんとかなるもんだ。

 

そう思いながら、階段を駆け下りた。

 

コトー先生頼みをしていると、なんとか次の駅まで持ちこたえることができた。

 

しかし、問題はトイレの個室が空いているかだ。

 

蜜に虫が集まるように、美人の周りに人が寄ってくるように

 

トイレもまた、我々腹痛に苦しむものを寄せ付けるのだ。

 

経験上、この駅のトイレが空いている可能性はおよそ50%。言い換えれば、五分の確率で漏らす。

 

「大丈夫だよ。」

 

コトー先生が言ってくれている。

 

その言葉を信じ、トイレに駆け込む。

 

個室は!?空いているか!?

 

 

 

空いていた。5つあるうちの1つだけが、まるで俺を待っていたかのようにポツンと空いていた。

 

「治療は成功しました。もう大丈夫です。」

 

ありがとう、コトー先生。俺はまだ、生きていられるんだ。

 

「またねー!」

 

船に乗ってシキナー島に帰っていく先生。ここからだと8時間くらいかかりそうだけど大丈夫かな。先生、船酔いしやすい体質なんだけど。

 

でも、ありがとう。本当に助かった。

 

頭の中からコトー先生を消し去り、個室に入った。

 

次の瞬間、信じられないものを見た。

 

コトー先生は船酔いしやすい

 

天国から地獄

 

まさにこのことだろうか。

 

ポツンと空いていた個室に飛び込んだ僕が見たものは、盛大に水漏れしている洋式便所だった。

 

たぷんたぷんに張られた水、今にも溢れ出そうだ。

 

しかも中に普通に用を足してある。つまり、ある。アレが。

 

マジか。こんなことあるのか。

 

念のため流してみる。

 

溢れた。

 

飛び上がるようにして逃げた。うんこ漏らしそうなのにあんなに速く動いて大丈夫だったのだろうか。

 

仕方ないので並ぶ。1秒が惜しいというのに…

 

コトー先生!コトー先生助けてください!

 

船で帰った先生に話しかける。

 

「ヴォォォオェ!!」

 

盛大に吐いている。そう言えばコトー先生は船酔いしやすい体質だった。

 

もう奴は頼りにならない。

 

自分の力で、なんとかする。

 

そんなこといっても出来ることなんてなにもなかった。

 

いや、俺まだ余裕ありますよ。みたいなオーラを出すので精一杯だった。

 

僕の後ろに兄ちゃんがきた。

 

あの魔窟に飛び込もうとしている。

 

助けなくては。

 

「そこの個室、壊れてますよ。」

 

コトー先生のように話しかけたかったが、現実はそうもいかない。

 

脂汗ギトギトのオタクがいるだけだった。

 

シキナー島なら村八分にされるところであるが、その兄ちゃんは優しかった。

 

「あっ、そうなんですか。ありがとうございます。」

 

ありがとう、お礼なんか言ってくれて。俺は、君のコトー先生になれたのかな。

 

なんてことを考えていると、音がした。

 

カラカラカラカラ…

 

トイレットペーパーを使っている音だ。終わりが近い合図。

 

よし、いける。まだ、いける。

 

終わりが見えない我慢はキツイが、ゴールが見えれば随分と楽になる。

 

 

 

……

 

出てこない。いつまでも個室から出てこない。音がしてから3分は待ったのでは?

 

時計を見る。驚いた。

 

30秒しかたっていない。

 

30秒!?たったの!?

 

ユピーにハコワレを撃ち込んだナックルの如く絶望する。

 

頼む、頼む…!

 

もう、祈るしか、できない。

 

悪魔のセッション

 

スッ…スッ…

 

布の音がする。ズボンをあげているんだ。

 

つまり、もうすぐ出る。俺も準備しなくちゃ。

 

「カチャ…カチャ…」

 

個室内から優雅にベルトを締め直す音がする。まるでハープのようだ。

 

「ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!!!!!」

 

うるさいなぁ。ハープが聞こえないじゃないか。誰だよ。

 

俺だ。

 

俺のベルトの音だ。一刻も早い脱糞をするため、ベルトは外しておく。

 

ただ、あまりに余裕がないので乱暴な音になっている。まるでテーブルマナーの悪いジジイが奏でる食器音。

 

ハープとテーブルマナーの悪いジジイのセッションをしていると、ドアが開いた。

 

駆け込む。

 

鍵!!閉めたか!?

 

よし!

 

蓋!!開けたか!!

 

よし!

 

ベルトォ!!

 

もう外してます!

 

ズボンをパンツを下ろせ!

 

オールグリーンです!!

 

 

ハッ!!!!

 

 

楽園が見えた。そう、勝ったのだ。

 

危なかった。リアルにあと30秒で漏らしてた。

 

でもそんなことはどうでもいい。

 

漏らさずに済んだ。これが大事。

 

ありがとう、コトー先生。あなたの優しい言葉が、僕を助けてくれました。

 

コトー先生、聞こえる!?ありがとうございました!

 

「ヴォォォオェ!!」

 

まだ彼は吐いていた。島まで、あと7時間45分だ。

 

頑張れ、コトー先生。俺を助けてくれてありがとう。今度は、コトー先生が頑張れ。

 

俺は、もう行くよ。

 

終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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